華やかな音で目を覚ます。それがサックスの音だと気づくまで3秒、ジャズを奏でていると気づくまで10秒、今日からジャズフェスティバルだと気付くまで30秒。もうそんな時期かと身を起こす。まだ少し肌寒いからベットから出るのは億劫で、そのまま朝の微睡みに身を委ねることにした。これから一ヶ月、街は音楽に浸される。
音には感情がのりやすい。言葉を持たなくても楽器を手にすれば雄弁に語ることができる。ここの音楽は嫌いじゃない。あたたかくて心地いいのだ。ひとたび音が発せられると水に落としたインクのように広がり、そして全てがそれに染まる。音に音が重なり、歌がのり、ステップを踏む音が追いかける。そして最後には歓声と拍手に包まれていく。
ふと思い立ち、窓へ近づく。ほんの少しだけ窓を開ける。音に耳を澄ませて、ピアノのカバーを開けた。流れ込むジャズの空気にピアノを添えていく。いつもの朝に少しの彩りが加わった。六月の音色には幸福が詰まっている。