グラスが触れ合う音、人々の笑い声、美味しそうな香り、それらを心地よく包むジャズの響き。ジャズフェスティバルも終盤に差し掛かっているが、未だ興奮は冷めやらず今日も駅前は賑やかだ。ロータリーに停めたタクシーの窓を開けて街の空気を楽しむ。
こういうときはお客が多いから混ざらずに側からそっと見てる。酔っ払ったお客は厄介な人もいるけれど、大抵はご機嫌で楽しそうに話してくれる。車に乗るのが一等好きだからお酒はあんまり飲まないけれど、華やかになるこの期間になるとたまにはいいかなと思ったりする。あの輪のなかはさぞ愉快だろう。
そんな風に外を眺めていると、遠くから私を呼ぶ声がする。
「あねき〜〜〜〜〜!!」
手をブンブン振りながらこちらに駆け寄ってくる赤髪。
「あねきも一緒にどうすか」
両手いっぱいに食べ物を持ってニッコリと笑うメル。この祭りを満喫しているようだった。
「仕事中」
そう言うと見るからにシュン……とするから思わず吹き出す。
「じゃあそれ、いただこうかな」
山の中からホットドッグを指さす。
「もちろんっす!!あ、お代はいらないっすからね」
お礼を言って受け取り、かぶりつく。パリッと音をたてて口に迎えられたソーセージからは肉汁があふれ出た。単体であったならこぼれ落ちていたであろうそれを、柔らかなパンが受け止めている。ケチャップにマスタード、最後にピクルスが締める。うん、美味しい。
メルはソワソワしながら様子をうかがっているから美味しいと伝えると顔を綻ばせた。
「それオレのお気に入りなんすよ!!気に入ってもらえて良かった」
初めて会ったときとは似ても似つかない柔らかい表情。そう、若者はこうあるべきだ。手ならいくらでも貸す。
楽しそうなメルをみて、ふと思いつく。
「そうだ、最終日は列車でくることにするよ」
そう言うと目をキュッと細め、大きく口を開けて喜んだ。もしメルにしっぽが生えていたら、ちぎれんばかりに振っているだろう。
「それってジャズフェスにくるってことすか!?オレもお供したいんすけど!!」
「そういうこと。案内、お願いできるかな?」
メルの大きな返事が辺りに響く。周囲の人は一瞬驚いてこちらを見たが、すぐさまドッと笑いがおこった。パトロール中のお巡りさんが寄ってきて「メル坊、今日も元気だなぁ」なんて頭を撫でようとしている。そんな様を笑いながら眺めている。
最終日はもうすぐそこ。